（戦況） この時期、イ号16潜（東襄)と16潜（有園勝）をもってブーゲンビル島に、ロ号115潜をもってウエワクにそしてロ号41潜（青木滋）でクサイ島にそれぞれ作戦輸送（人員、弾薬、食糧等を軍艦で輸送することをこう呼んでいた）を行なっていた。
イ号16潜 （艦長岡田英雄少佐） には砲術長として有園 勝中尉が乗組んでおり、三月二〇日呉を出撃し、マーシャル方面で作戦した後、四月二〇日トラックに帰着していた。 この潜水艦の次の作戦はブカ島への物資の輸送であり、五月一〇日トラックを出撃、一八日現地着の予定であったが、予定日になっても現地に到着せず、六月一一日沈没と認定されている。 戦後に発刊された米海軍のモリソン戦史による同艦の最期は以下のとおりであり、その沈没位置は南緯四度一分、東経一五六度二九分（上図に示す）で、目的地ブカ島へ今一歩というところであった。 五月一六日、米第九四駆逐隊は、ソロモン群島の基地を出港して北西に向った。同隊はハガ−ド、フランクス、ヘーレ、ジヨンストンからなっていた。同夜九時半頃、一グリーン島のほぼ東方的一二〇浬を捜索列を張って航行中、ハガード号（艦長ハーリス中佐）は、右舷艦首二八〇〇ヤードにソナー（水中探信機）探知を得た。これがイ号176潜、一六〇〇トンであった。フランク号には協力を、他の二隻は警戒を命ぜられた。 装備爆雷全部をもって五回攻撃を加えたところ、第四回目と第五回目との間に激しい水中爆発を聞き波紋を認めた。駆逐艦は、翌日の夜まで捜索を続行したが、再び探知は得られなかった。しかしながらヂーゼル油の流れが七浬にも及び日本潜水艦から出たことイ号16潜は明らかであった。
五月一四日、イ号１７６中尉が乗組んでいた。同艦は、二月二六日横須賀発で三月六日トラックに進出して、この方面で作城中であった。 トラックを出撃した同艦はそのまま消息を絶ち、現地にも到着せず六月二五日ソロモン群島北方海域で潜航中沈没と認定されていた。 戦後この艦の最期は、モリソン戦史の詳細記録により明らかにされたが悲惨というほかない。もち論他の犠牲艦についてもほぼ同様の状態ではあったと想像するのであるが。同艦の撃沈されたのは、五月一九日であり、場所は南緯五度一〇分、東経一五八度一〇分で、米護衛駆逐艦イングランド号により撃沈されていた。この潜水艦が敵に発見された端緒は、暗号を解読されたためであったと記録されている。 一九年五月は潜水艦狩りにとり愉快な月であった。第四駆逐隊が戦果を挙げてから（注・イ号川潜の撃沈である）三日を経て、護衛駆逐艦イングランド号（艦長ベンドルトン海軍少佐）の一連の武勲が始まった。この事実は、対潜水艦において何れの海洋にもその例を見ないものである。このイングランド号は、単艦をもって一二日間に六隻の潜水艦を沈めたのである。 五月一八日午後、護衛駆逐艦三隻イングランド号、ジョージ号、レービイ号はバービス湾を出港し、ブインに取り残された日本守備隊に対する補給路を断つため、南緯五度一〇分、東経一五八度一〇分の地点に向った。 一九日一三時三五分（現地時間）、すなわち到着予定時刻の一時間前に、三隻の駆逐艦は二浬間隔で捜索列を張り静かな海上を航行していった。ジョージ号を中心にレーピー号がその左方に、イングランド号はその右方に占位していた。イングランド号は、約一、八〇〇米のところにソナー探知を得て、ヘッヂホッグ攻撃を五回加えた。 第二回目の斉射で二発命中し、第五回目には三発の命中が得られた。（注・一斉射は二四発のロケット弾である）一分後に艦尾方向に烈しい水中爆発が起り、その余波で同艦の推進器保護わくが水中に持ち上り、艦内の乗員は甲板上に倒れた。一同は自艦が雷撃されたかと思ったが、間もなく潜水艦が舷側に極めて近く爆発したことが判明した。 先ず油が海面に現われ、次いで器具その他の破片が浮上した。二一〇〇トンのイ号16潜から吐き出された乗員は鷺の餌となった。かくて熟達果敢なイングランド号の犠牲者はその運命を閉じた。更に資料を得んとして、九五尋の深海から尚も油が浮上してくるのを監視しながら翌朝まで附近海面に待機した上、三隻の艦はビスマーク群島の外方を北西に進んだ。 以上がイ号１６潜の悲惨な最期であった。このハンターキラーグループの次の犠牲者は、萩原達雄中尉の乗艦であった。 |